《@toshiaki_takase》

題と会期

題
《@toshiaki_takase》
会期
第 1 回 2026 年 10 月 2 日 – 10 月 18 日
場
NEORT++(東京)。「自己破壊芸術展 / An Exhibition of Auto-Destructive Art」内
器
Room = 器 #0(10/2 – 10/18)/ Web = 器 #1(10/19 から。終了は未定)

Room と Web は同時ではなく順次に開く。会場の Room が閉じた翌日に Web が開き、Web の終了は未定である。

ステートメント

仮置き(2026-09-15 時点の草稿)/ Provisional

はじめに

《@toshiaki_takase》は、作家 Toshi(高瀬俊明)が 2012 年から使い続けている本物の X アカウントを、他人が減らすことだけできる状態で公開する一連の作品である。来場者と Web の鑑賞者は、そのアカウントのポストを削除し、いいねを取り消し、リポストを取り消し、フォローを解除し、ブックマークを外すことができる。何かを付け加えることは、誰にもできない。作家自身は会期中も投稿を続ける。

作品の前提は、生成 AI 以後のタイムラインである。人が長い時間をかけて積み上げてきた投稿は、その人が誰であるかを他人が判断する材料だった。生成される文章が人の文章と見分けられなくなったとき、積み上げはその機能を失う。名前もアカウントも残っているのに、「この人が何を考えてきたか」を確かめる手立てが消える。作家はこれを、身体の死とも忘却とも異なる第三の死 — 蓄積が本人を保証しなくなることによる、信頼の死 — と捉え、その死をすでに迎えたものとして自らのアカウントを差し出す。

削除は、この消失を可視化する行為として選ばれている。誰かの投稿が一つ消えるたびに、アカウントは少しずつ読めなくなる。それを行う手は来場者であり、Web の向こうの誰かであり、人かもしれず機械かもしれない。作家は結末を定めていない。アカウントが空になるのか、投稿が削除に追いつくのか、誰が消し、誰が持ち去るのか — それを見てから考える、という姿勢がこの作品の構えである。

ただし、アカウントも作家も生きている。式を開くのは本人であり、閉じるのも本人であり、閉じたあとも生きて投稿を続ける。式は一度で終わらない。開くたびに新しい器が一つ生まれ、閉じた器はそのまま残る。

コレクション解説

シリーズ《@toshiaki_takase》は三つの作品で構成される。三つは同じアカウントを対象とし、消えたものの同じ跡を扱うが、誰がいて、何ができ、跡がどこへ行くかが互いに異なる。

作品 場 できること 消えたものの行き先
《@toshiaki_takase: Room》 会場(NEORT++、東京) ポスト削除・いいね解除・リポスト解除・フォロー解除・ブックマーク解除の五種 作家が用意した鍵が、器へ収める
《@toshiaki_takase: Web》 ウェブ(x.toshiaki-takase.com) ポスト削除のみ 鑑賞者が自分の鍵で、器へ収めるか、収めずに手放すかを選ぶ
《@toshiaki_takase: Urn》 Ethereum メインネット — 収められたものを受け、閉じ、49 日を置いて、誰かの手に渡るか、誰の手も届かない場所へ

会場に来た人は、他人との関係(いいね・フォロー)や私物(ブックマーク)まで断つことができるが、消したものの跡は必ず作家の器へ収まる。来られなかった人はポストしか消せないが、その跡を器へ収めるか、自分の手で持ったまま放すかを選ぶことができる。いいね・フォロー・ブックマークがウェブから触れないのは、X 社の API がそれらの操作を提供していないためであり、作品はこの制約をそのまま構造に取り込んでいる。

器は Ethereum 上の一つの契約「Columbarium」の中に置かれ、式ごとに一つ生まれる。第 1 回は 2026 年、NEORT++ での展示にあたる。器に添う証書(ERC-721)は、閉じてから 49 日を置いて買い手に渡るか、誰も鍵を持たないアドレスへ移る。契約には、作家が二度と器を開けなくする手続きが一つあり、それが呼ばれるまで、次の回の可能性は開かれたままである。

個別作品解説

《@toshiaki_takase: Room》

会場の外部モニターには、作家の本物の X アカウントにログインした状態の x.com が表示されている。クローンではない。来場者は有線マウスだけで操作し、キーボードとトラックパッドは透明アクリルのカバーで物理的に封じられている。

画面は x.com そのものだが、ブラウザ拡張によって、押せるものが減算の五種に絞られている。押せないもの — 投稿、返信、いいね、リポスト、フォロー、検索、ホーム — はグレーに沈み、押せるもの — 自分のポストの「…」、いいね済みのハート、リポスト済みの矢印、「フォロー中」、ブックマーク済みの印 — だけがわずかに明るい。来場者がそれを押すと、本物のアカウントから本当に消える。

MacBook の内蔵画面には、X の通知画面の見え方を借りた第二の画面があり、減った出来事だけが流れる。「〇〇さんのポストへのいいねを削除しました」「ポストを削除しました」。増える通知は一つもない。

会場で消えたもの一つごとに、32 バイトの跡(後述)が作られ、作家が用意した鍵で契約の器へ収められる。来場者はウォレットも鍵も見ない。

会期: 約 2 週間、開廊 14:00–19:00。

《@toshiaki_takase: Web》

ウェブ版は、同じアカウントを x.com の見た目のまま写したクローンである。三カラムの配置、プロフィールヘッダー、記事の構造と件数、左ナビ(通知・履歴・プロフィール)は、実機の x.com を採寸して再現されている。表示されるのは X の API が返す直近 3,200 件で、いいね数・リポスト数・表示数は生きた数字である。作家が投稿すれば現れ、誰かが消せば消える。3,200 件の窓は、消えるたびに過去へずれ、古い層が現れる。

鑑賞者ができることは一つで、ポストの「…」から「ウォレットで削除」を選ぶことである。ウォレットを接続していなければ消せない。確認のあと、サーバーが X の API でそのポストを削除し、確かに消えたことを証す一枚の署名を返す。鑑賞者はそれを持って、跡を器に収めるか、収めずに手放すかを選ぶ。

削除のあとに署名を拒めば、本体は消え、跡は収められも放されもしない。引き取り手のないまま残り、やり直しの導線はない。

いいね・フォロー・ブックマークの一覧は表示だけで、「会場でのみ」と示される。通知画面には、会場で消えたもの・ウェブで収められたもの・手放されたものが並ぶが、手放した人のアドレスは表示されない。名は、その人が自分のトランザクションで刻む。

《@toshiaki_takase: Urn》

Ethereum メインネット上の契約「Columbarium」と、その中の器、器に添う証書からなる。

跡は、消えたもの一つにつき 32 バイトの値である。行為の種類、対象の ID、時刻、そして消える直前の姿(本文と添付のハッシュ)から一方向に計算され、そこから本文を復元することはできない。器の中身は、この形の無い一粒の列と、種類別の件数だけである。誰の手で収められたかは器に残らない。台帳(イベント)にだけ、会場の鍵か、ウェブの署名か、の区別が残る。

器は式ごとに一つ生まれ、作家だけが開くことができる。同時に開いている器は一つ。会期の終わりに作家が閉じると、以後その器には何も入らない。閉じてから 49 日間、誰でも器の証書に値を付けることができる。49 日を過ぎると誰でも決着を呼ぶことができ、最低価格以上の入札があれば証書は落札者へ渡り、なければ証書は誰も鍵を持たないアドレス 0x…dEaD へ移る。落札者の手に渡った証書を、いつか保有者自身の手で同じアドレスへ送ることもできる。

証書は ERC-721 のトークンで、器の番号がそのまま tokenId となる。文面は完全にオンチェーンで生成される公文書風の一枚で、回数、会場、本人が存命であること、保有者、契約、開いた日、閉じた日、49 日目の日付、状態、収められた数と内訳、開いた者の名が記される。閉じてから 49 日目までは譲渡できない。

契約には、最後の一度の手続きがある。作家、または作家が指定した執行者が、開いている器がないときに一度だけ呼ぶことができ、以後、器は二度と開かない。証書の「存命」の記述は、そのとき書き換わる。呼ばれない限り、次の回は常に可能である。

ウェブで手放されたものは、契約を通らない。契約はその数を知らない。

記録の性質

X 上の記録は、消えると取り戻せない。チェーン上の記録は、消えたことだけを刻み、消えない。器が持つのは「何が、いつ、どの種類の行為で消えたか」の一方向のハッシュであり、本文を復元することはできないが、原像を手元に持つ者は再計算して照合できる。生成できるものが増えた時代に、生成できないもの — ある時刻に、あるものがここにあり、人の手で取り除かれたという事実 — だけを器は持っている。

式の仕組み

式の仕組み左に作家の本物の X のアカウント。そこから二本の手が伸びる。会場の来場者はマウスだけで減らし、その跡は作家の鍵を通って器へ収まる。Web の鑑賞者は自分のウォレットで減らし、跡を器に収めるか、器に入れずに自分宛ての取引として手放すかを選ぶ。器は Columbarium という契約の中にあり、閉じたあと四十九日を置いて、せり市を経て誰かの手に渡るか、誰も鍵を持たないアドレスへ移る。Columbarium(契約)X のアカウント(本物)Room — 会場の来場者(マウスだけ)Web — 鑑賞者(自分のウォレット)作家の鍵収める手放す自分宛ての取引(器には入らない)器 #n閉じる四十九日せり市渡る誰も鍵を持たないアドレスへ
  • 元にあるのは、作家の本物の X のアカウント一つ。手は二本。
  • Room — 会場の来場者が、マウスだけで減らす。消えたものの跡は、作家の鍵を通って器 #n に収まる。来場者は鍵もウォレットも見ない。
  • Web — 鑑賞者が自分のウォレットで減らす。跡は、収めれば器 #n へ。手放せば自分宛ての取引にだけ残り、器には入らない。
  • 器は Columbarium という一つの契約の中にあり、式ごとに一つ生まれる。同時に開いているのは一つ。
  • 作家が閉じると、その器には何も入らない。四十九日を置いて、せり市を経て誰かの手に渡るか、誰も鍵を持たないアドレスへ移る。

器の一覧

記録を読んでいます。

記録の場所

Columbarium(記録の契約)
0x60717ea7F8E6B37984AA6ac690aF2D48a7f44051 — Etherscan で見る
Seriichi(せり市の契約)
0x4Be34a28bc46EE31db0B75063172E0B7F13F65aa — Etherscan で見る
喪主(作家。tsh.eth)
0xDb5C70D55D427AC1063330129499e1806C50cb0A — Etherscan で見る

いまここに出ているのは、試走中の Sepolia のアドレスである。メインネットの契約は 2026-09-28 を目標に置く予定。

手放された跡の確かめ方

  1. 手放された跡は器に入らない。手放した人が自分自身に宛てて送った、一つの取引の中にだけ残る。
  2. その取引を Etherscan で開くと、跡と、削除を証す署名がそのまま載っている。
  3. その署名した者を、跡が指す器の certifier と照合すれば、確かに消えたものの跡だと分かる。

照合する道具(verify-scatter)は展示システムのリポジトリにある。そのリポジトリは非公開なので、ここには名前だけを記す。

クレジット

制作Toshi(高瀬俊明)
パートナーClaude Fable 5.1, Opus 5
技術支援X(x.com、X API v2)/ Ethereum メインネット / Solidity・Foundry・OpenZeppelin Contracts・viem / Google Chrome(拡張 Manifest V3)・macOS launchd / Node.js・Vite / Cloudflare(Workers・KV・Pages・Registrar)/ EIP-1193 対応ウォレット(鑑賞者側)/ Etherscan(閲覧)
素材・加工透明アクリル 3 mm レーザーカット(はざいや)、金物(MonotaRO)
展示Room: NEORT++(東京)/ Web: x.toshiaki-takase.com / Urn: Ethereum メインネット(契約のアドレスはデプロイ後に記す)